成果概要
ナノファイバー共振器QEDによる大規模量子ハードウェア[3] 周波数安定化光源システム
2023年度までの進捗状況
1. 概要
量子コンピュータを社会実装するためには、高い稼働率で長時間安定に運用できるシステムの開発が必要です。ここで、レーザー冷却原子・イオンに基づく全てのハードウェア方式について、その安定な運用に必須なのが周波数安定化レーザー光源システムです。レーザー冷却原子・イオン実験では、原子・イオンの遷移に合わせたさまざまな波長のレーザーが必要です。
これらの光源はそれぞれの波長帯で一定波長に波長(周波数)安定化されており、位相雑音が極めて低く(スペクトル線幅換算で1 Hz以下)、かつ高い信頼性で長時間動き続ける必要があります。我々は、広い波長域で発振し、小型・長寿命な外部共振器型半導体レーザー(ECDL)を光源として選択しました。しかし一般にECDLは、音響振動や温度変化等の外的擾乱に対する静的安定性が低く、制御なしでは大きな位相雑音を持ちます。そこで本課題では、我々の強みであるレーザーの低雑音化制御に加え、ECDLに外乱抑制のための様々な制御手法を取り入れることで小型・堅牢な低雑音光源システムを実現しようとしています。

2. これまでの主な成果
我々のグループでは以前から、光格子時計の冷却用および時計遷移観察用レーザーのために、光周波数コム(光コム)を用いた低雑音光源システムの開発を行ってきており、時計の一部として実戦投入されています。本プロジェクトではこれまでに、多くの波長で汎用的に使えるECLD光源の開発、およびその低雑音化制御への適応性、および長期連続稼働の障害となる要因について調査してきました。
セシウム原子のD2線波長である852 nmにおいて、光バンドパスフィルタを用いたECDLを製作し、その発振モード特性、強度雑音、位相雑音、および周波数変調に対する応答特性の評価を行うとともに、光コムの一周波数成分に位相同期することに成功しました。このことは、このレーザーが線幅1 Hz以下になるように低雑音化制御することが可能であることを示しています。次に、長時間連続稼働に向け、ECDLを光コムに位相同期した状態でその制御信号の変動を観察したところ、環境、特に気圧変化の影響が大きいことを突き止めました。図2は、気圧とPZTに印可する制御電圧変動(≒未制御時のレーザー周波数変動)が強く相関していることを示しています。

3. 今後の展開
誤り率低減のためには光源の低雑音化が特に重要になります。現在最も低雑音な光源は、光格子時計などの超精密光時計に用いられる線幅1 Hz以下の超低雑音レーザーです。そしてその波長変換に用いられている光コムが付加する位相雑音も極めて低く、超低雑音レーザーの位相雑音をほぼ悪化させることなく波長変換することができます。しかしながら、それでも誤り率を目標まで小さくするのに十分低雑音であるかわからないという試算もあります。
本プロジェクトでは今後、この超低雑音レーザーおよび光コムの位相雑音を評価し、それが誤り率低減に十分であるか実証的に評価することを目指します。並行してさらなる低雑音化、長期連続稼働を可能にする堅牢化、そして多波長化・小型化を進めていきます。
