第277回「DC消費電力削減 継続的な技術開発必要」
広がるAI活用
生成AI(人工知能)の活用拡大により、その計算資源であるデータセンター(DC)への投資も急拡大している。それとともに消費電力も増大しており、短期的および中長期的な対策が必要となっている。
米国のIT企業のグーグル、マイクロソフト、アマゾンの合計投資額は2023年米国の国内総生産(GDP)27兆ドルの約0.5%に達している。また大規模なDCの消費電力は10万キロワット以上であり、原子力発電1基の出力が約100万キロワットであることから消費電力の大きさが分かる。
23年の米国内DCによる電力消費量は20年のほぼ2倍となり、総電力消費量の約4%を占め、今後も増加すると推定されている。10年から20年までは情報量・計算量の大幅な増加にもかかわらず、技術開発などによりDCの電力消費量はほぼ一定に抑えられてきた。
一方で、昨今の電力消費増大は、生成AIが大きなコストである電気代の制約を打ち破るだけの価値を生み出し、情報量・計算量も急増していることを意味している。しかし、過去の情報通信分野における電力消費量増大の問題は「世界の電力を食い尽くす」といった論調の報道であったが、昨今そのような報道は少ない。
これは電力の増加要因がDCだけでなく、電気自動車などの電化推進の影響も大きいためである。またDCの電力消費量増加は、少なくとも現時点では世界全体の問題ではなく、DCの立地場所の局所的な問題、特に電力送電網の能力不足などとしても捉えられており、日本でも今後同様な問題が起きると考えられている。
郊外立地の動き
DCの設置場所は、これまで通信の遅延時間を最小限にするために大都市圏に集中していた。しかし生成AIとしての用途であれば、若干の遅延が許容されること、通信網のコストが電力網の約100分の1と安価かつ導入期間が短いことなどから、発電所の郊外立地が優位となる。
短期的対策として、米国では二酸化炭素(CO2)フリーで安定な電力供給源として、地熱や原子力発電の隣に立地する動きがある。また日本でも電力会社と情報通信会社との連携強化により、郊外立地の動きがある。ただし生成AIを持続可能な形でこれから活用していくためには、中長期的対策として電力消費削減への継続的な技術開発は欠かせないといえる。
※本記事は 日刊工業新聞2025年2月21日号に掲載されたものです。
<執筆者>
尾山 宏次 CRDSフェロー(環境・エネルギーユニット)
東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。石油会社で主に自動車燃料品質などの研究開発に従事。14年より現職。環境・エネルギー分野の研究開発戦略立案を担当。博士(工学)。
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